withコロナ時代に求められる院内感染対策とは?現場最前線での対策も紹介
新型コロナウイルス感染症の流行により、「感染を恐れ、歯科医院に行くのを控えている」という患者さんや生活者も多くいらっしゃる昨今ですが、感染を“正しく”恐れ、不安のない治療を継続的に提供できる環境づくりが必要だと考えております。日本歯内療法学会は、感染対策に関する適切な情報を伝えていくことで、患者さんや生活者の口腔健康の維持に貢献してまいります。
【サマリー】
- withコロナ時代に求められる院内感染予防
・マスク着用、手指消毒、検温など、通常の感染対策に加え、飛沫からの感染(唾液、体液、血液への対策)に最大限留意
・患者さんの口腔の健康保持、および、従来からの診療体制の安全確保のために、患者さんおよび医療者の体調管理システムの構築や相互防御の徹底、治療内容に応じた感染対策、待合室内での導線確保などが求められる
- 歯科治療にこそ求められる「滅菌・消毒」、その現状とは?
・歯科における感染経路は、①医療者→患者さん、②患者さん→医療者、③患者さん→患者さん、の3つがあり、特に患者さん同士の感染は、無症状感染者の待合室での接触など、今後注視すべき問題
・歯科治療においては「標準予防策」が設けられているが、それに加え、各診療分野・専門分野ごとの感染対策が必要
- “歯の根っこの治療”・歯内療法における「滅菌・消毒」の意義
・「歯内療法」とは、「歯の根の治療」「神経を抜く治療」とも言われる治療。多くの方が受けたことのある基本的かつ身近な治療法だが、高度な技術が要求される
・「歯内療法」における感染リスクは非常に小さいと言え、そのためには「無菌的処置」やラバーダムなど適切な器具器材の使用が求められる
- 今後の対策
・クリニックでの感染対策としては、以前より行っている標準予防策に加え、フェイスシールドとアイソレーション・ガウン(防護具)の着用を新たに導入するなど、徹底して行っている
・新型コロナの影響で患者さんの受診控えなども見られるが、半年に一度は歯科医院で専門的ケアを受けるのが良い。また、その間もセルフケアを行い、口腔衛生に努めることが重要
・今後の歯科治療は、「治療中心の歯科」ではなく「予防歯科」または「管理歯科」があるべき姿。さらに、治療を受ける際には再発防止のためにも、専門的な治療を受けることが望ましい
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【詳細】
- withコロナ時代に求められる院内感染予防
■歯科医院におけるニューノーマル、医療現場での感染対策の現状
新型コロナウイルス感染症発生下では、病院やクリニック内における感染予防の徹底は不可欠です。そこで、歯科医院における感染予防策についてご紹介いたします。歯科治療においては、マスク着用、手指消毒、検温など、通常の感染対策に加え、飛沫からの感染(唾液、体液、血液への対策)に最大限留意することが必要です。
<医院・クリニックでの対策>
・スタッフのマスク着用・手指消毒・検温等での体調管理、受付へのビニールカーテン設置
・院内清掃の徹底(特に、診療室入口のドアノブは消毒液で頻繁に清拭)
・器具や器材の滅菌・消毒の徹底
・待合室・診療室の換気の徹底(窓やドア開放、空気清浄機の稼働)
・予約時間を調整し、待合室の密回避
・口腔外バキュームの使用(診療時の飛沫対策)
<患者さんへのお願い>
・来院時のマスク着用・手指消毒・検温(37℃以上で不要不急の診療と思われる方は受診を控えていただく)
・診療前にイソジン液でのうがい
■続くコロナ禍、今後の歯科治療のあり方
新型コロナウイルス感染症を考慮し、今後の歯科治療は上記の対策を行いつつ、患者さんの口腔の健康保持を達成しなければなりません。従来からの診療体制を安全に確保していくために、患者さんおよび医療者の体調管理システムの構築や相互防御の徹底、治療内容に応じた感染対策、待合室内での導線確保などが求められます。
- 歯科治療にこそ求められる「滅菌・消毒」、その現状とは?
■感染経路から見る歯科における感染リスク
歯科における感染経路は以下の3つが挙げられます。
(1)医療者 → 患者さん※コロナウイルスの感染例なし
(2)患者さん → 医療者※コロナウイルスの感染例数例あり
(3)患者さん → 患者さん※コロナウイルスの感染例なし
(3)について、現時点で確認されていませんが、無症状感染者の待合室での接触など、今後注視すべき問題です。
■歯科治療に求められる滅菌・消毒
歯科治療における感染対策については、新型コロナウイルス感染症発生以前より以下が定められております。
・口腔内で使用する歯科医療機器等について、患者さんごとに交換、専門の機器を用いた洗浄・滅菌処理を徹底
・歯科用吸引装置(口腔外バキューム)の設置
・歯科医師の定期的な外来感染対策研修受講
新型コロナウイルス感染症発生下においては、これら標準予防策に加え、各診療分野・専門分野ごとの感染対策が必要です。
- “歯の根っこの治療”・歯内療法における「滅菌・消毒」の意義
■多くの人が治療を受けたことがある?「歯内療法」とは
「歯内療法」とは、自分の歯をできるだけ抜かずに治療することを目的とした治療の総称で、「歯の根の治療」「神経を抜く」と言われる治療も歯内療法の範囲です。特に歯の根の深くにアプローチする治療を「根管治療」と言います。
「歯内療法」は多くの方が受けたことのある基本的かつ身近な治療法ですが、根管の径は1ミリメートル以下の細い管で、形態は様々で非常に複雑なため、歯内療法には高度な技術が要求されます。
■「歯内療法」における感染リスク
日本歯内療法学会が推奨する標準的かつ適切な治療(無菌的処置)を行えば、「歯内療法」における感染リスクは非常に小さいと言えます。無菌的処置とは、①術者の手指消毒、②手術野(歯の周囲)の消毒、③器具材料の滅菌・消毒のことを指し、この3点を完全に施すことが「歯内療法」において求められます。また、無菌的処置を徹底するために、以下器具器材の使用が必要です。
・ラバーダム防湿
ラバーダム防湿は治療対象の歯のみを口腔内から隔離、また、手術野を消毒することで、だ液の侵入を防ぐことができます。無菌に近い状態で歯科治療を行う有益な方法です。
・口腔外バキューム
切削時の飛沫を吸引し、口腔内のだ液や血液を含んだ飛沫が室内に浮遊するのを防ぎます。診療室内の空気汚染防止に有効。
・タービン
歯を切削する道具で、先端にダイヤモンドが付いたポイントや刃のついたカーバイト製バーを差し込み、圧縮エアーで駆動。患者さんごとに滅菌しパックに入れて保管します。
・滅菌装置(左)/小型滅菌装置(右)
歯科医療機器の滅菌を行う装置。小型のものは、タービンなど頻繁に滅菌するための装置。
- 歯科医院における感染対策最前線!専門医インタビュー
日本歯内療法学会 副理事長・佐久間歯科医院 院長 佐久間 克哉
【略歴】
1982年神奈川歯科大学卒業。歯学博士。
昭和大学客員教授、2003年~2017年総合診療歯科学講座、2018年~歯科放射線学講座。日本歯科医学会評議員。
【所属学会】
日本歯内療法学会 専門医・日本顎咬合学会 認定医・
日本歯科放射線学会 会員・日本臨床歯周療法集談会 会員
■クリニックではどのような感染対策を行っているか
以前より行っている標準予防策に加え、新たに導入したのが、フェイスシールドとアイソレーション・ガウン(防護具)の着用です。術者-患者間の感染を防ぐためのもので、患者さんごとに取り換えて水平感染を防いでいます。また、ガウンを着たまま他のエリアには移動しないなどの徹底をしています。
■新型コロナの影響で、受診控えなどはあったか
ありました。特に4、5月は多くキャンセルがあり、また、予約も少ない状態でした。そこで、受診控えの患者さんを対象に、新型コロナの情報発信に心がけました。例えば、「コロナは不衛生な口から感染しやすい」「口腔管理をしていかないと免疫力が低下する」「歯科に通い口腔衛生に努め免疫力を維持」「口腔衛生を強化する方がむしろ感染しにくくなる」「侮ってはいけないが“正しく恐れる”ことが必要である」等、DMで繰り返し発信いたしました。
■第三波発生後、来院状況に変化があるか
少し落ち込みが見られましたが、4、5月ほど大きく無く、おおかた定期健診にも応じて頂いています。しかし依然として重症化年齢と言われる高齢者と病後の方は、かなり慎重で受診控えが続いています。
■年末の治療駆け込みへの対策
当院は患者さんに予約制だと認知されているため、ひと昔に見られた年末駆け込みはここ数年ありません。コロナ禍での駆け込みは予期せぬ“待合室の密”や、予約以上に患者さんを多く診ることでユニット周囲の患者さんごとの消毒(患者さんごとに5分程度所要)の手抜きにつながる恐れがあります。清潔で安全な医療を提供するために、予約制は事前に周知する必要があると思います。
■患者さんが気をつけるべきことは?
セルフケアの徹底です。口内の細菌を減らすことはウイルス感染の重要な予防策です。また、規則正しい生活習慣の実践とバランスの良い食生活で免疫力を低下させないようにすることも重要です。また、やはり半年以上専門的ケアから遠ざかることはお勧めできません。こんな時だからこそ歯科医院での専門的ケアが必要と考えます。
■今後の歯科治療のあり方についてどうあるべきだと考えるか
歯科疾患は定期的な健診とケアで防げる病気とされており、防ぎようのない病気ではないのです。今後は痛くなったら受診するという「疾病に対する治療中心の歯科の業態」から、悪くならないようにする「予防歯科中心の業態」または今ある疾患と共存して機能を存続させていく「管理歯科の業態」が今後あるべき姿ではないかと考えます。その中でどうしても起きてしまう疾病に対しては、専門的な治療で再発率を下げ、“やり直し治療”の機会を減らすことが大切と考えます。
【参考URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000071385.html