2020年8月31日 第1回「食と健康の未来フォーラム」を開催
第1回の今回は、『食品添加物のこと、考えてみませんか?~私たちはどうして「無添加」が気になるのだろう~』と題し、長年誤解や不安感が解けない食品添加物について取り上げました。タレントのスザンヌさんをはじめ、有識者や業界の代表者にもご参加いただき、当日は同時視聴者数1300人(のべ視聴者数:2600人)を超える生活者を交え、食品添加物の安全性や安心できる食の選択について議論を行いました。その様子をレポートします。
第2部 幸せな食の選択をするためにも「情報の共有化」が欠かせない
食品添加物の存在意義や安全性が生活者に理解されていない現状を重く受け止める
西井:第1 部を伺い、思った以上に食品添加物は曖昧な捉え方がされていると思いました。食品添加物は、我々食品メーカーにとっては欠かせないものですが、生活者の約半数が不安に思っている。何のために食品添加物が使われているのか、伝えきれていないことを改めて痛感しました。
下村:食品添加物は食品メーカーの効率性や利便性のために「欠かせない」んだろう、と思っている人も多いと思いますが、そういう文脈で仰ったのではなく…?
西井:そうです。例えば、お豆腐は「にがり」で豆乳を固めていますが、「にがり」は食品添加物です。栄養価を高めるために、ビタミンやミネラル、アミノ酸が入っている食品がありますが、これらも食品添加物で、生活者のベネフィットのために使用していると思います。古代ローマ時代でも、うま味調味料の成分である「グルタミン酸」が見つけられていますから、人類の歴史とほとんど変わらない時から長い間私たちはこの素材を食に取り入れています。
小木曽:無添加を選ぶ人が多い一方で、第1部の街頭インタビュー映像を見ても、無添加を選ぶ理由を明確に説明される方はあまりいないようでした。僕はどっちでも良い派なのですが、「食品添加物は気にしない、どっちでも良い」より、「無添加を選ぶ」と答えたほうが楽だし面倒も避けられますよね。食品添加物は安全、問題ないなんて言ったら、「えっ」と驚かれたり、相手によっては批判してくるのではという不安もあるのではないでしょうか。
下村:人は本能的に危険なものを避けるという話もありましたが、ならば「大丈夫だ」という情報は、どうやって伝えたら良いのでしょうか。
唐木:やはり科学の知識が多少は必要だと思います。食品の安全を守る仕組みがどうなっているのか、最低限のことは理解をしておかなくてはいけません。例えば食品添加物の場合、一生の間、毎日食べ続けても何の影響もない非常に微量しか添加を許されていないことや、発がん性物質や体内に蓄積される物質は絶対に使ってはいけないことなど、そうした知識を持つだけでも随分考え方は違ってくるのではないでしょうか。
下村:食品添加物を安全だと言っている科学者と、食品添加物が危険だと主張している団体がそれぞれ、自分の主張に説得力があるデータを選択している場合、無限の並行線になってしまいませんか?
唐木:最近のリスクは目に見えません。チェルノブイリ原発事故があった時、ドイツの哲学者が書いた本で言っていたことですが、化学物質も放射線は目に見えず、五感では分からない。科学者が専門機器で調べて初めて分かります。自分では調べられないから、科学者や行政が信頼できなければ不安になってしまうのです。食品添加物も同じで、どれくらいの量が入っていて、どのくらい危険かは、味やにおい、色では分からないのです。そうすると誰かの言うことに頼るしかない。「食品添加物は危険」と主張するインターネット上の情報か、「食品添加物は安全」と言う厚生労働省や食品安全委員会、どちらを信頼するかという話になってしまう。その解決には、情報発信者が信頼を得られるような発信の仕方をすることが必要です。
減塩や減糖、食中毒対策にも。
在宅医療の現場で活用される食品添加物
下村:管理栄養士として日々の患者さんとのコミュニケーションの中で、食品添加物の不安を取り除けないなど、何か事例はありますか?
中村:在宅医療の現場で患者様を訪問するときに、食品添加物が良いのか悪いのかを聞かれたりします。食品添加物は国が安全性を認可しているもので、厚生労働省のホームページを見せてあげたりもします。国が安全性を認めているということは、信頼性と妥当性があると思うので、安全性を心配する必要はないと伝え、なるべく安心してもらえるよう説明をしています。それでも不安に思う人がいるので、理解をもう少し広められたらと思っています。
下村:「国が認めてるから心配ない」という説明で、通用しますか?では逆に、在宅医療の現場で「ほら、食品添加物がないと困るでしょ?」というような場面は、あるんですか?
中村:たくさんあります。まず、私が訪問している患者様の中には生活習慣病の方もいらっしゃり、減塩が課題です。減塩の食事は味が薄いので、おいしく食べてもらう工夫が必要です。また糖尿病の患者様には砂糖のかわりに甘味料で甘さを感じていただき満足感を得ていただきます。高齢者は、新型コロナウイルス感染症にかかると重症化するリスクが高く、政府からも買い物を控えるような指示がありました。そうなると買い物に行けない中で、保存料が使われていないものは鮮度が早く落ちたり、食中毒のリスクが増えたり、また鮮度が悪くなったものを食べることにより体調を崩してしまったり、いわゆる低栄養を招いてしまうこともあります。食品添加物は私たちの食生活に重要な役割を担っていると言わざるを得ません。
西井:病院や介護施設で食事を提供する際のガイドラインでも、願わくば「無添加であれ」が受け継がれています。それにより、お出汁を昆布からとり、できるだけ作りたてのものを、という具合に食品添加物と対立しなければならない。1 日の食材費が決まっている中で、結果的においしさにこだわりきれない施設食が提供されていることを耳にします。入居者の方々はおいしくないと食べませんよね。そうすると残食率が高くなり、中村先生がおっしゃったように低栄養になってしまうのです。ここにうま味調味料を使っていくとコストを下げ、その分食材に回しておいしい減塩を進めることができるのですが。
食品添加物の利用は、お客様の豊かで健康な生活のための1つの手段として、適切に使っていく
下村:セブン‐イレブンさんでは、無添加を前面に打ち出している商品がたくさんあるように感じますが、食品添加物についてどう考えていらっしゃるのでしょうか。
斉藤:2002 年より、フレッシュフードを中心に保存料や合成着色料不使用という訴求をしてきましたが、食品添加物を使っていないかといえば、そんなことはありません。ほとんどの商品が食品添加物の恩恵を受けているのが実態です。当時、保存料や合成着色料不使用を訴求した背景には、「添加物が使われているコンビニ弁当は不健康だ」という報道があったからです。しかし、現在は行政や消費者団体の方々がそういった不使用表示は消費者に誤認を与えるのではないかと議論されていることもあり、食品添加物との向き合い方を模索していかなければいけないと思っています。風向きが変わってきたなと。当社としては、保存料・合成着色料不使用の代わりに、製造過程の衛生管理を高める努力をすることを意思表明しています。商品ごとに、食品添加物を使う場合、原料や製造工程
で解決する場合というように。ですが、そこがなかなか伝わっていないことが我々の課題だと思います。
食品添加物を使う場合は、必要最低限の種類と量だけを使い、お客様の関心の高い食品添加物の使用は極力控えるようにするという考え方を大切にしています。例えば牛丼弁当は、家庭で作る味を目指しながら、近年重要な環境課題を解決するために毎年少しずつ商品の見直しを行ってきています。具体的には今まで20度の常温で売っていたものを冷蔵に温度帯を変更したり、新たな設備を導入し、極力人が関与しない製造方法へ変更しています。その結果、食中毒のリスクも避け、商品自体の安全性も向上することができました。様々な取り組みがありますが、食品添加物の有用性は当然理解し、食品添加物を不安に思うお客様の心理についても理解した中で、適正に活用していくことを心がけています。
西井:お客様が召し上がるところまで、どういった状態で届けるかによって、食品添加物の使い方が変わってきて良いと思います。セブン‐イレブンさんは自社のポリシーが明快で、その明快なポリシーに沿ってものづくりをされており、素晴らしいと思います。一方で、根拠が説明されていない状態で無添加とだけ表示されていたり、「化学調味料」不使用と表示することで、生活者を惹きつけようとする商品など、生活者の優良誤認を招くような事例があることは否めません。私は食品産業のプロとして、ここに課題があると思っています。
(第2部 後編に続く)
※ライブ配信のため、内容には一部個人の見解や曖昧な表現も含まれております。
※発言は要約です。一部、短い補足説明の追記や、論旨の流れを整えるための順序の並べ替えを
しております。
「食と健康の未来フォーラム」は2 時間にわたり活発な議論が交わされ、視聴者アンケートでも、
約80% が満足という高い評価をいただきました。
【参考URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000059753.html